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ヘッドウェイ新時代〜若きカスタムショップ・ビルダーが手がける注目のコンセプト・モデル

Headway

例年ディバイザー大商談会で、桜材やコーヒーツリーなど稀少な木材を使った限定モデルを発表しているHeadway。今年の大商談会で特に注目したいのが、Headwayのカスタムショップ・ビルダーとして敏腕を振る安井雅人と降幡新が設計した2本のコンセプト・モデル。前者が手がけるY’s Concept、後者が手がけるF’s Conceptの両機種ともトップ材に黒エゾ松が使用されており、ヘッドウェイの伝統とモダンさが融合した興味深いモデルに仕上がっている。この2本の見どころ、こだわりのポイントについて両名に聞いた。

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楽器としての演奏性と耐久性を両立させながら、音質にもこだわったギターを作れるか?(安井)

——まずは簡単な自己紹介をお願いします。安井さんはHeadwayではどのような仕事を担当していますか?

 私はヘッドウェイ・テクニカル・ディレクターという肩書をいただいており、おもにヘッドウェイ・ブランドの技術的な部分の責任者を任されています。日常の業務ではおもにATBシリーズ(ASKA TEAM BUILD)のバック材の準備や研磨全般、組立工程の最終的なチェックをしております。また、国産ヘッドウェイ全体の生産管理も担当しています。

ヘッドウェイのテクニカル・ディレクターを務める安井さん。モダンなスタイルを積極的に取り入れたギター作りに定評がある。

——去年はコーヒーツリー材を使用したモデルなど新しい試みとのギターが発表されましたが、今年の大商談会で注目してほしいヘッドウェイ商品を教えてください。

 どれをとなりますと全部となってしまいます(笑)。桜モデルや531DXなど、ほかにも注目してほしい商品はたくさんありますが、強いて言えばY's ConceptとF's Conceptの2機種です。この2機種はカスタムショップのビルダー(安井と降幡)が、コスト制限の許す範囲内でどこまでパフォーマンスを上げられるか? いかにそれぞれのギターに個性を出せるか?を考え抜いたギターです。ここのところ、毎年それぞれ1機種を世に出させていただいておりますが、ここまで音質や演奏性を考え抜いたギターはなかなかないと思います。

——安井さんのモデルと言えば、カッタウェイや新しいトラスロッド(ツイストレス・システム)を導入するなど、現在進行形の進化型ヘッドウェイというイメージです。今年のY’s Conceptの特徴は?

 私自身は、楽器としての演奏性と耐久性をいかに両立させながら、音質にもこだわったギターを作れるか?という考えのもと、Y’s Conceptのギターを製作しています。今年もその路線は変わりませんが、去年よりさらにこだわって改良を進めた仕様となっております。具体的に言うと、去年のモデルよりもさらにネックセットの状態を改良し、さらにベストなネックの状態になるようにしました。それにより弦のテンション感が向上し、より弾きやすいギターになったと思います。

——トップに和材である黒エゾ松を使用しているそうですが、長年寝かせていた秘蔵の木材なのですか?

 長年寝かせたと言うほど長期間保管していた材ではないのですが、数年前に仕入れて入念に乾燥させていました。乾燥もうまく進んでいましたし、今年は和材に力を入れて製作することになったので、使用することにしました。

トップに黒エゾ松を使用した塗装前のボディ。

——一般的にスティール弦にはスプルース・トップが多いですが、黒エゾ松をトップに使うことで、サウンドにどのような違いがありますか?

 黒エゾ松はマツ科のトウヒ属に属する木で、シトカ・スプルースやジャーマン・スプルース、アディロンダック・スプルースなどと同じ属の木になります。数有るマツ科の木の中で日本にあるマツ科トウヒ属の木は、アカエゾマツとエゾマツ(黒エゾ松)になります。つまり日本にもアコースティック・ギターのトップ材に適した木があるということです。当然同じ種類の木になりますのでサウンド面で劣るということはなく、むしろアディロンダック・スプルースに近い木質をしており、見た目も非常によく似ております。サウンドメイクもアディロンダックを想定した時と同じ感覚できるので非常に作りやすかったです。アディロンダックとほぼ同じ特徴をしており、高音域の響きは特に格別です。

——ブレイシング材にも黒エゾ松が使用されていますが、これはどのような効果を期待したものですか?

 これもトップ材と同じく、アディロンダックに似た特徴ということもあり、ブレーシングにも最適と言える高品質な音響特性を備えています。ただ場合によっては響きすぎることもありますので、設計によっては使用しないほうがよい場合もあります。今回の私のモデルでは、プレイヤーが繊細な高音域の表現をしっかりと出せるように、黒エゾ松をブレースに使用しました。フォワード・シフト・スキャロップド・ブレイシングの低音域の響きの良さと、黒エゾ松が持つキレイな高音域を両立したパターンとなります。

——バックは3ピースで、インディアン・ローズウッドと神代タモを使っていますね。これもあまり見ない組み合わせですが、この木材を選択した理由は?

 今回ボディの主材にはインディアン・ローズウッドを用いました。これはコスト面とサウンド面の両立を考えた結果です。また弊社で所有するインディアン・ローズウッドの中でも目の整った高品質なものを私自身が選定しました。インディアン・ローズウッドはその比重の重さや硬さから、ドンシャリなサウンドが特徴です。加工面でもとても素直で扱いやすく、サウンドメイクしやすい優れたボディ材です。神代タモは千年以上前の木材で非常に稀少性が高く、簡単には手に入りません。神代タモは軽いわりに硬く繊維質な木質をしております。硬く軽い木はとても高音が綺麗に響くのが特徴です。そんな貴重な神代木をセンター材に使用したのは贅沢な味付けです。インディアン・ローズウッドのギターは世に数多くありますが、そのローズ・サウンドは聴き慣れたサウンドとも言えます。そのローズ・サウンドに神代タモの究極に枯れたサウンドを言わばスパイスのように味付けし、ひと味違ったローズ・サウンドを目指しました。

塗装前のバック材。3ピース構造でインディアンズ・ローズウッドと神代タモが使用されている。エボニー指板を採用したエクストラ・スリムUネック。内部にはカーボンが仕込まれている。ポジションマークもスタイリッシュなデザインだ。

——木材の特性に合わせて細かくサウンド・メイキングを行なうそうですが、このモデルのブレイシングのパターン、トーン・バーなどについて、こだわった部分があれば教えてください。

 基本パターンはフォワード・シフト・スキャロップド・ブレイシングになります。これは音響特性的に良く響き、ドーンと迫力のある低音が特徴のパターンとなります。今回そのフォワードシフトの特徴である低音ではなく、あえて高音域の調整を行ないました。例えば、トーンバーは通常よりも数ミリほどボディ・エンド側にずらし、ボディの振動域を大きくし、繊細な弦振動も表現できるように設計しました。黒エゾ松の響きの良さも相まって綺麗な高音域が生まれ、高音から低音までバランスの取れたサウンドとなりました。

——ネックのスペックについても細かく教えてください。エクストラ・スリムUネック(ESU/カーボン補強入り)とは?

 ESUネックは、カーボンの補強をトラスロッドの両脇に入れることでネックの反りに強くなり、かつ極限まで薄くしたグリップになります。薄いグリップは運指性も良く、素早い演奏や繊細な表現に向いていますが、補強なく薄くしたグリップは弦の張力に負けてネック反りが起こり、演奏に支障をきたします。これは軽く高強度のカーボンが入っているからこそ実現できるグリップです。

エボニー指板を採用したエクストラ・スリムUネック。内部にはカーボンが仕込まれている。ポジションマークもスタイリッシュなデザインだ。

——このネックに採用されているツイストレス・システムとは?

 通常の棒鉄芯のトラスロッドは、構造上ネックの反りを矯正するのと同時に、ネックに対して捻じれようとする力を加えてしまいます。その結果ネックにわずかな捻じれが生じ、低い弦高にセッティングするには、まず捻じれを解消しなければなりません。何とか捻じれを解消して良い状態にセットアップできたとしても、捻じれようとする力は常にネックに加わり続けるので、いずれまた捻じれる可能性があります。このわずかな捻じれを起こさせないように開発したのがツイストレス・システムになります。トラスロッドのナットとワッシャーの間に特殊なボールベアリングを挟むことで、捻じれようとする摩擦を受け流す構造になっております。

——ブリッジを薄くし、プレートにハカランダを使用しているそうですが、これの狙いとは?

 ブリッジを薄くすることで、期待できる効果はふたつあります。まず、ネックセット角が起きますので、これによりサドルで折れる弦の角度が浅くなり、弦がスムーズに動きやすくなります。それに弦のテンションが柔らかくなり、演奏しやすくなります。もうひとつは、ブリッジを薄くすることでブリッジ自体の重量が軽くなり、トップ材が振動しやすくなります。もちろんブリッジは、サドルや弦をしっかりと支えなければならないので、一定以上の強度が必要になります。今回は強度と重さのバランスを極限まで調整致しました。また、ブリッジの裏面(ボディの内側)にあるブリッジ補強プレートを、通常はメイプルを使うところをハカランダで製作しました。この補強プレートは弦のボールエンドが引っ掛かる部分で、ボールエンドが食い込まないように硬い材を用いる箇所となります。またブリッジの振動をトップ全体に伝える最初の補強材ともなります。ハカランダ材はとても硬く、ブリッジ下の補強材としてはうってつけの材ですが、稀少性が高く、なかなか使うことができません。今回は特別なモデルということもあり贅沢に使用することにしました。

あえて薄めに削り出されたブリッジ。弦のボールエンドを引っ掛けるプレートには、ハカランダが使用されている。

——その他、Y's Conceptならではのこだわりのポイントがあれば教えてください。

 ボディの厚みを通常のHC(ヘッドウェイのカッタウェイ・モデル)よりも4mmほど厚くしております。これはボディ内の共振周波数の調整のためです。ボディ内部の容積を増したことにより共振周波数がわずかに下がります。これは全体の音響特性を考慮してのことです。

通常よりも4mm暑く設計されたインディアンズ・ローズウッド&神代タモによるボディ。

——どのようなスタイルのプレイヤー、音色を求めるギタリストに弾いてみてほしいですか?

 イメージした音を素直に出してくれるそんなギターですので、基本的にはフィンガースタイルのギタリストに手に取っていただきたいモデルです。ほかにもシンガーソングライターのような演奏や、作曲もする方にもちょうど良いと思います。

安井さんが手がけたHC-Y’s Concept’23 F,S-ESU/ATB。

“良い材料を、堅牢な造りで、良い音に”という基礎的なコンセプトはかわらない(降幡)

——Headwayにおける降幡さんの役割について教えてください。

 自分はATBシリーズの生産管理とカスタムショップの製造を担当しています。ATBシリーズでは管理のほかに、サイド材の準備、甲貼り、ネックの仕込みなどをおもに担当していますね。ヘッドウェイのカスタムショップ・ビルターとしては1番の若手ですが、師匠である百瀬(恭夫)や兄弟子の安井に負けないよう日々精進しています。

ヘッドウェイATBシリーズの生産管理とカスタムショップの製造を担当する降幡さん。

——去年の降幡さんのF’s Conceptは、安井さんのモダンな仕様に対し、伝統を重んじるトラディショナルなスタイルでした。今年のモデルのコンセプトを教えてください。。

 今年のF’s Conceptは、初めてモダン寄りなルックスに挑戦し、“音でも、作りでも、見た目でも楽しめる”がコンセプトのモデルになっています。ただ、基本的な作りに関しては変わらず百瀬からの流れを継承したものですが、杢の入った材料や少し変わった装飾を取り入れることで昨年までとは違う雰囲気に仕上げました。

——降幡さんが考えるモダンさとは?

 シンプルな雰囲気の中にワンポイントでこだわった場所があったり、機能的な部分がデザインの中に自然に落とし込まれていると、モダンなモデルだなぁと感じます。今回のモデルで言うと、杢の入ったコアを使用したワンリングの口輪や、主張しすぎないエルボーコンターです。

口輪(ロゼッタ)にはハワイアン・コアを使用。

内部の設計を変えないように施された小さなエルボーコンターが演奏性を向上させる。

——今回、OMシェイプを選択した理由は?

 非常にシンプルですし、今まで作った自分のモデルで1番安定して結果が良かったのが、OMだったからです。自分の作り方と相性が良いのではないかと考えています。

——安井さんと同じくトップ材に黒エゾ松を使用していますが、この木材のサウンドや強度、加工のしやすさなど、特徴を教えてください。

 黒エゾ松は、さまざまな面でアディロンダックに近いように感じています。今回使用したものがたまたまなのかも知れませんが、パワフルで良い鳴りが生まれそうです。

塗装前のボディ。同じくトップ材には黒エゾ松を使用している。

——サイド&バックにはフレイム・マホガニーを採用していますが、18スタイルのような柔らかいサウンドが狙いとなりますか?

 まず、マホガニーを採用したのは個人的に000やOMの18スタイルの音が好きだからです。そして今回採用したフレイム・マホガニーは何年も前から寝かせていたもので、いつか使いたいとずっと考えていました。F’sを作る時は仕様をかなり自由に決められるので、このフレイム・マホガニーを採用しました。

何年も寝かせていたというフレイムの杢が入ったマホガニー・ボディ。

——黒エゾ松とマホガニーの相性からセミ・フォワード・シフトのブレイシングを採用したそうですが、その狙いを教えてください。

 ブレイシングに関しても、今まで自分が作ってきたカスタム・モデルの出来映えをもとにセミ・フォワード・シフトを採用しました。アディロンダックとマホガニーとセミフォワードの組み合わせは、どのモデルもバランスの取れた柔らかで心地よい仕上がりだったので、今回のコンセプトもそのように仕上がってほしいと願い、セミフォワードを採用しました。

——安井さんのモデルと同様、ボディが4mm厚く設計されているそうですが、その理由は?

 ボディ全体の厚みを通常のヘッドウェイのモデルよりも4㎜厚くしてあります。OMのバランスや反応の良さを損なわずに低音の豊かさや深い鳴りを少しでもプラスすることを狙っています。

——ネック・シェイプや、ナット幅についてのこだわりを教えてください.。

 ネック・シェイプでのこだわりは、薄すぎないスリムVネックを採用していることです。個人的にナローVのネックのほうが好きなのですが、薄すぎるネックはどうも苦手なので、良いバランスを探った厚みになっています。カーボンの補強を入れているので、強度的な安心感もあります。また、ナット幅が44㎜になっていることもこだわりです。握り込んだ際のコード弾きにも繊細な演奏にも、さまざまなスタイルに対応できるのではないかと考えています。

——ナチュラルとブラウン・サンバーストの2色が展開されるそうですが、塗装の部分でこだわった部分はありますか?

 もともとこのモデルはナチュラルの予定だったのですが、箱になった頃に2色展開にしようと思いました。個人的に対になるようなデザインが好きなので、ナチュラルとバーストで対になるようにイメージしています。バーストの色味は濃すぎない絶妙な色合いを調合してもらいました。なんとなく、海外のルシアー製のような雰囲気に仕上がったと思います。

ブラウン・サンバーストのHOM−F’s Concept’23 SF,S-SV/ATB。

——その他、F’s Conceptならではのポイントがあれば教えてください。

 “良い材料を、堅牢な造りで、良い音に”という基礎的なコンセプトはかわらないのですが、ポイントと言われると、やはりまずはコンターになります。F’s Conceptのコンターはかなり小さいものになるのですが、これは“内部構造を変えずに入れることができるサイズ”になっているからです。大きいコンターを入れるためには内部に補強を入れなければならず、トップ材の振動を阻害してしまいます。F’s Conceptのコンターは、振動を阻害することなく通常の鳴りを維持したままで演奏者の負担を減らすことを目的としています。また、今回のF’sでは口輪やポジションもこだわりました。ワンリングの口輪に使った良杢のハワイアン・コアは、真っ直ぐではなく波形につなげていて、こだわりのお洒落ポイントになっています。ポジションはリング型をしているのですが、サイズ別でリングの幅を整えてスッキリとしたバランスに仕上げてあります。

スッキリしたポジションマークのデザインも秀逸。

——どのようなスタイルのプレイヤー、音色を求めるギタリストに弾いてみてほしいですか?

 F’s Conceptは、あまり“◯◯向け”ということに囚われすぎないように製作しています。素材的に柔らかく暖かい音になりやすいかと思いますが、どのように使うかは演奏者さんに自由に決めてもらえば良いと思っています。最高に楽しんでいただくために、しっかりと製作させていただくので、少しでも気になったのならばどのような方でもお試しいただきたいです。

降幡さんが手がけたHOM−F’s Concept’23 SF,S-SV/ATB。

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